白狐のアリア

 卑下た笑みを浮かべた1人の男がアリアに近づき、ぐいっと顎を持ち上げた。

 毎朝顔を洗っているのかと問いたくなるほど垢まみれの顔が、舐めるように眺めまわす。アリアの顔が嫌悪に歪んだ。


「きゃっ」


 黄色い歯をみせると、あっと思う間に後ろ手に地面に抑えつくられる。
 懐からロープを出すと、痛いほどきつく手首を結んだ。


「枝みたいに細いが、悪くない。銀1枚ってとこだな。太らせて化粧をさせりゃ、もう半枚つけれるかもしれねェ」

「上等だな」


 アリアは愕然とした。
 分かっていたはずなのに分かっていなかった、自分の未来が見えた。

 自分は売られるのだ。家畜のように、値段を交渉されて。銅貨一枚でも高く売れるよう、ちょうどよく太らされて。

 涙が込み上げる。声もなくアリアは泣いた。


「ああ、そうだ。確認をしなくちゃあなア」


 突然、やけに大きな声でリーダー格の男が話し始めた。


「…ック、え……?」


 確認。なんの確認だろう。この上何をされるというのだろう。恐怖がまた塗り重なる。


「静かで良い子だなア、嬢ちゃん。エ?」