(ああもう、なんでわたしってこんな目にばっかり遭うんだろう?)


 少女――アリア・ロレンスは、内心で深い深い溜め息をついていた。

 昔からそうなのだ。

 雨の日、馬車が横を走ると、まるで狙ったようにアリアにだけ泥水が跳ねる。

 晴れの日、森にキノコ狩りに行くと、安全なはずの森の入り口に魔物が現れる。

 他にも平らな地面で躓いたり、上がりやすい性格で肝心な時に噛んでしまったり…。

 自分はそんなにどんくさいのだろうか。でも人並みに器用ではあると思う。確かに運動は苦手だけど。


(って、なんて呑気なことを!)


 今考えなくてはならないのは自分の不幸を憂えることではない。まずなんとかしてこの盗賊から逃げおおすことである。

 ロバとはもともと速く走れる種ではない。
 太く短い足は、重いものでも引っ張れる力持ちのしるしだ。速く駆けるのは馬――そう、ちょうど今アリアを追いかけている盗賊達の乗っているような、馬なのだ。

 やがて先回りされ囲まれたアリアとロバは、ゆっくりと足を止めた。ロバは座り込み、その背にいるアリアも当然一緒に地面に膝をつく形となる。