「貴様は、なんだ。
さっきから頭の中で人の名前を連呼しやがって」
「うふふ。そう怒るでない」
牛鬼には、この女が信じられなかった。
明らかに不機嫌な白火に対して、艶やかに笑いながらその鼻先をトンと指で突いたのだ。
命知らずとしか考えられない。
絶句している牛鬼を放って、天女は話しだした。
「妾(わらわ)は、そうだな、天香久山神(あまのかぐやまのかみ)、とでも名乗っておこうか」
「……神だと?」
「ああ。
…怒るでないよ。綺麗な顔が台無しじゃ」
ふわりと、天女――天香久山が浮いた。そこに椅子でもあるかのように膝を組み、手の先に顎を載せる。
「お主に頼みたいことがあるのじゃ」
「……」
「お主、強者を求めておらぬか?」
無反応だった白火の整った眉が、ピクリと動いた。
「つまらぬじゃろう。この世では、おそらくお主よりも強き者はほとんど居るまい?
そんな主には、とても良い話になるかと思うが」
「……その話、詳しく聞かせてもらおうか」
