走る私の頭に、この場の環境を思い出す余裕なんて無かった。 湿っぽく、視界の悪い場所だったことに。 苔がびっしりと生えた階段を、何十段と下らなくてはならなかった事に。 「・・・・・っ!」 「うわぁぁぁぁぁぁ」 当然、体は階段を転がり落ちる。 激痛が、体中を襲う。 意識が飛びそうになるのを堪え、足に力を入れた。 ぬるり、とした温かいものが頬を伝う。