「心ここにあらずだよ。」
眉を下げて心配そうに言う凛を捺は凝視する。そして顔を顰めたまま凛に言う。
「それは凛の方だから。」
「え?」
「“心ここにあらず”」
そっくりそのまま返された言葉に凛は戸惑った。
お互い意識だけは別のところに飛んでいるらしい。だからさっきから無言でも気まずく無かったのだ。お互い深く考え事をしていたから。
「何かあった?」
捺が背凭れに寄り掛かる。
ギィと鳴った椅子の音。
「べ、別に何も…」
「ウソだね。目泳ぎすぎ。」
バッと凛は両手で顔を覆う。
そして両手の隙間から捺を覗き見れば、捺はこちらをジッと静かに見据えている。
捺を誤魔化すのはやっぱり無理だと分かった凛は、両手を顔から退かした。

