金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


思いきり振り下ろしたコンパスが、今までと違うものを刺した感触がした。



「…………?」



手……人の手、だ。


誰の……?



「……写真より、生身の人間を傷つけた方がスッとする?」



恩田が、痛みを堪えているのを笑顔で隠しながら私に尋ねる。

右手の甲にぽつんとできた、丸くて赤黒い傷……

私が、傷つけたんだ。



「……っ…ごめんなさ……私……」



私の手の中から、コンパスが転がり落ちる。



「やっぱり……こっちが本当の三枝さんですね。きみは人を傷つけて平気な子なんかじゃない」


「……っ……!」



信じちゃだめ。

でも、信じたい。



「この穴の数だけ、ううん……それ以上につらいんですよね?」



頼っちゃだめ。

でも、頼りたい。



「一人で……よく頑張ったね」



泣いちゃだめ。だめだよ。


でも……



「――――泣いて、いいんですよ?」



優しい言葉に導かれるように、涙が溢れてきた。



「……ふっ……う…えっ」



そんな私の背中を、恩田の大きくてあたたかな手がずっと、さすっていた。