電車を降りると、私はもう悲しんだり悩んだりする気力さえ失くしてしまっていて……
今が春で良かった。
冬だったら靴を脱いでなんて絶対に歩けないもん。
そんなどうでも良いことを考えながら、駅を出てまたあの近道を通っていた。
ふわりと、花の香りが鼻をかすめて私は足を止めた。
見上げると、ちょうどあの家の前……
この間は、ここから恩田が出てきてびっくりしたな。
それで、したくもない会話をしながら送ってもらって……
『信じてみるって、大事だよ』
アイツがそう言ったから、私は……
徐々に頭に血が上ってくるのを感じて、私は唇を噛んだ。
「アンタが……余計なこというから……っ」
そして玄関の扉をキッとにらむと、手に持っていたパンプスの片方をそこに投げつけた。
パンプスは派手な音を立てて扉に衝突し、真下に落ちる。
それでも気が済まなくて、もう片方も投げるために大きく振りかぶった。