金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


急に押し黙ってしまった私たちを見て優しく微笑んだ先生は……

それからひとりひとりに、最後の言葉をプレゼントしてくれた。



「――小林くん」


「は、はい」


「きみはいつもみんなの見ていないところで、教室の清潔を保ってくれていましたね。みんなが掃除が終えても、いつも最後まで雑巾を手放さない姿……僕は見ていましたよ。

その小さなことに気が付ける精神は、きっとこれからのきみの人生に役に立ちますから、忘れないようにね」


「……はい」



え、そうだったの!?と反応したのは有紗だ。当の小林くんは、頬を赤くして気まずそうにしている。



「森田さん」


「はい」


「きみは最初一匹狼でしたよね。女子特有の空気が苦手そうで、いつも静かに本を読んでいた。

でも、最近はとても柔らかい印象になって、素敵な女性になりました。その調子で、彼と仲良くね。ただし、彼の業務に支障が出ない程度に」


「ふふ、わかりました」



“彼”が誰のことなのか知らない男子たちは、不思議そうな顔をしていた。


私と有紗は、もちろん同じ人物の顔を思い浮かべてクスリと笑った。


……今頃くしゃみしているかも、木村先生。