「――――びっくりしましたよ。トイレで杉浦くんに会ったのは偶然かと思いましたが、彼からほかのクラスメイトも来ていると聞いて……」
「本当は、全員で来たかったんです……でも、そうはいかないから代表だけで来ました。そうだ、先生に渡したいものが……」
ゆっくり先生から身体を離すと、菜月ちゃんから紙袋を受け取ってそれを差し出した。
「みんなからの、寄せ書きと……小さいですけど、お花です」
「ありがとう……まさかこんなことをしてもらえるとは思いませんでした。
これだから、教師と言う職業は楽しいです。生徒たちはいつも、僕が思いもよらないことをしてくれる。真心とか、可能性とか、そういうあたたかくてキラキラしたものを感じさせてくれる。
……僕は幸せ者です。こんなに優しい生徒たちに出逢えて」
先生がそう言って笑った時、人の行き交う空港の一角が、まるでいつもの教室になったような錯覚を覚えた。
きっと恩田先生は、どこに居ても自分の周りを教室にしてしまうのかもしれない。
それが空港でも。これから行く見知らぬ土地でも。
「……恩ちゃん、色紙読まないの?」
有紗が先生に訊いた。
「本当は今すぐ読みたいんですけど……飛行機に乗ってからにします。たぶん、泣いてしまうので」
「学校来る最後の日も、結構泣いてたもんな」
「ああ、それは恥ずかしいので忘れてください……」
土居くんにからかわれて、照れながら苦笑する先生を見て、みんなで笑った。
別れの前の、ほんのわずかな、楽しいひととき。
けれどその平和な時間は、先生が腕時計を確認する仕草をした瞬間に終わりを告げた。
「そろそろ、時間ですね…………」

