金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


先生に近づきたい心とは裏腹に、私の足は棒立ちのまま動かない。


何を言うんだっけ……


とりあえず、おはようございます?


それとも……


私が変なことで悩んでいる間に、他のみんなは先生を取り囲んでいた。



「――――千秋!」



そして、中心に居る先生が……私を呼んで、両手を広げている。



「おいで」



いつもと変わらぬ穏やかな声、優しい瞳。


私の大好きな、先生が、呼んでる……


私は小さく、一歩を踏み出す。


頭の中の余計なもの、いったん真っ白にしよう。


あの腕の中に私の幸せがあるんだから、思いきり、抱き締めてもらえばいい……


二歩、三歩と踏み出す頃には、飼い主に呼ばれた犬みたいに、一目散に駆け出していた私。


仲間たちが見守る中。


通行人の目を気にすることもせず。


私は先生の胸に飛び込んで、愛しい温もりと大好きなにおいに包まれた。