金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


「――研修、頑張って下さいね」


「うん……千秋も、もうきっとほとんど合格圏内だとは思いますが、気を抜かないように勉強頑張って下さい」



なんとなく重苦しい雰囲気のまま家まで送ってもらって、別れ際にそんな言葉を交わした。


家の中にはお母さんがいるし、ここで抱き合う訳にはいかないけど……

このまま別れるのは、名残惜しい。


先生も同じ気持ちなのか、いつまでも私の目の前に立ったままで帰ろうとしない。


ずっとこうしていたって仕方がない……

自分の気持ちに素直に従っていたら、真夜中まででもこうして先生と見つめ合ってしまいそうだ。


そう思って、この暗い空気を断ち切るように言う。



「それじゃ、私……行きますね」



くるりと先生に背を向け、家の門を開け玄関までの少ない階段を駆け上がる。

そして扉に手をかけ、家の中に入ろうとしたのだけれど……


私は少し迷ってからその手を離すと、踵を返してまだこちらを向いて立っている先生の元へ駆け下り、背伸びをして触れるだけのキスをした。