「……時には、息抜きもしてくださいね?」


机の上でぎゅっと握りしめた私の手の上に、先生が自分の手をふわりと重ねた。



「ただでさえ受験生は色んなプレッシャーと戦わなければならないのに、千秋は僕のせいでさらに思いつめてしまいそうだ。

大事な時に側に居ない僕をたくさん罵っていいから、どうかその後に深呼吸をして、心にゆとりを持っていて欲しい。これは、恋人というより担任として、千秋に言いたいことです」


「……恋人として、言いたいことは……?」



私が訊くと、先生は優しい瞳を真剣な色に変えてこう言った。




「――――――僕を、待ってて。

……ただ、それだけです」




ガタン、と椅子が鳴り、柔らかいオレンジの光の中で私は先生に抱き締められた。

いつもより強い力で回された腕が、別れを予感させて切なかった。


大丈夫……


きっと大丈夫だよ……


だって先生はこんなに私のこと、想ってくれてる。



その頃から、私は何度も何度も自分に“大丈夫”を言い聞かせて、先生との別れに対する心の準備を始めた。


その日が来たときに、笑って……は無理かもしれないけれど、先生を困らせずに、ちゃんと見送れるように。