金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


先生は疲れたようにため息をつき、腕時計を見ると私の手を握って歩き出す。



「ちょっと……どこに行くんですか!」


「電話をしたいので、もう少し人の少ない場所へ。早く歩いて下さい、新幹線に間に合わなくなってしまう」



間に合わなくなるって……

先生はまだ、旅行に行くつもりなの……?



「……もう一つ聞きたいことがあります」


「もう、一つ……?」


「千秋は、僕と旅行にいきたくないんですか?」


「そんなわけ……っ」



即答してから、しまった、と思った。

さっきのサヨナラが自分の意思に反したものだと、きっとばれてしまった。


上目遣いに先生を見ると、にっこり微笑んでいる。



「……よかった。じゃあ行きましょう。もちろん、千秋が気になっていることをはっきりさせてから」



先生はそう言うと、人の流れをよけて壁際のスペースへと私を連れていった。

そしてすぐに誰かに電話をかけ、難しい顔をしながら携帯を耳に当てる。





「――――もしもし、姉さん?」