金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


私は顔を上げて、自分の今つくれる精一杯の笑顔を先生に向けた。





「――――先生、今までありがとうございました」





……これで、いいんだ。



私は重たいボストンバックを肩にかけ、まだ状況を飲み込めない顔をして立ち尽くす先生に背を向けた。


泣くのは、もう少し先生と離れてから。


そう思って、私は早足でその場を立ち去ろうとしたのだけれど……



「…………待って!!」



私を引き留める言葉と共に、強い力で腕を引っ張られて。


無理矢理に先生の方を向かされ、私は泣き出す寸前の情けない顔を先生の前にさらしてしまった。



「……千秋。なんですかその台詞とその顔は」


「…………」


「もしかして別れのつもりですか」



問い詰めるように言われて、私は黙ってうなずくしかなかった。

先生は一度深いため息をつき、それから右手で握りこぶしを作ると、私の頭を叩いた。

手加減はしてると思うけど、結構強い力で。



「痛っ……!」


「……そうやって勝手に僕の気持ちを決めてしまうのは、千秋の悪いクセです」



怒ったような口調で、先生がそう言った。