金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


「それは……?」



そう聞いてきた先生に無言でメモを渡し、私は大きく息を吸い込んだ。






「……小夜子さんの、居場所です。

小夜子さんは……


生きて、いるんです」






――ついに、言ってしまった。


怖くて先生の顔が見れない。


私はうつむいて、ぎゅっと唇を噛み締める。



「……何を言うんですか、いきなり。小夜子が生きてるはずが……」

「――私だっていやだって思いました!!」



つい、怒鳴るように言ってしまった私を、通りすぎる人たちが怪訝そうな顔で振り返る。



「千秋……」


「でも……本当なんです。漁師さんに助けてもらったって。……それで……」



その人と結婚したいから、先生とは離婚したい……

そのことがなかなか言い出せなかった。


先生が傷ついた顔をするのを、見たくなかったから。



「……とにかく、小夜子さんは先生と会って話したいそうです。だから、先生はこんな場所で私と向き合ってる場合じゃない……旅行なんて、してる場合じゃない……」