金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


「――おはよう。早いですね」


私が何を考えてるかなんて全く知らない先生は、いつも通りの穏やかな声でそう言って私に缶のミルクティーを差し出す。

それを受け取って指先をあたため、少しだけ緊張のほぐれた私は言う。



「……話したいことが、あったから……だから、早く出てきました」


「話したいこと……?」



先生は、腕時計を見て少し考えてからこう言った。



「新幹線に乗ってからの方が、時間があります。それからゆっくり……」

「――――ここで、聞いて欲しいんです」


私は先生を真っ直ぐに見つめて言った。

すると先生は何か察したらしく、表情を固くして私に問いかける。



「冬休み前から少し様子がおかしいとは思っていましたが……その原因と関係がある?」



……やっぱり、先生は気づいてくれてたんだ。


そんな優しい先生だから、好きになったんだ。


きっともう過去形にしなきゃいけなくなるけど……


恩田先生……


私はあなたが……


本当に本当に大好きでした。


口には出さずにそう言った私は、コートのポケットからあのメモを取り出した。