「私たち……悪いことしてるんですか?」


「……世間的には、そうなのかもしれません。でも僕は、たとえ罪人(つみびと)と言われようと、千秋を手放すつもりはありません」


「……先生」



私たちはどちらからともなく、ぎゅっと抱き締め合った。


こんなにも誰かを大切にしたいって思ったのは初めてで、愛しいってきっとこういう気持ちを指すんだと思った。


抱き合っているのに苦しくて


唇を合わせる度に切なくて


けれどその分、涙が出そうなほど幸せで。



もしこれが“悪いこと”であるなら、世間の常識って取るに足らないことのように思えてくる。


少なくともこの部屋は、この庭は、漂う花の香りは……


私たちを赦(ゆる)している。

そんな、気がした。