金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜


「どうぞ」


「ありがとうございます……」



差し出されたティーカップに口をつけてみたけど、味なんてよくわからなくて……

私は紅茶を飲む振りをして、庭を見つめる先生の横顔をしばらく盗み見ていた。



「……金木犀の香りの中、隣には千秋がいて、きみの手作りクッキーを食べながら紅茶を飲めるなんて、今日はなんて幸せな誕生日なんだろう」



言葉通り幸せそうな笑みを浮かべてクッキーをかじる先生。

とっても嬉しいことを言われているはずなのに……

私は何故か、こんなことを聞いてしまった。



「本当に……幸せですか?」



カップを受け皿に戻すと、カチャンといやな音がした。


せっかく楽しい雰囲気なのに……なんで今、不安が膨らんでしまうの?


今日は先生の誕生日なのに。

私たちの大切な日になるはずなのに。



「千秋……?」



先生が怪訝そうに、私の顔を覗き込む。



「……ごめんなさい、なんでもないです」



修学旅行でのことは、やっぱりまだ私の中にしこりとなって残ってるみたいだ。


誕生日に隣に居るのが私なんかで本当にいいのか、自信がない――――……