ふと周りを見渡すと、少し離れた場所で私と同じように壁に寄りかかって水槽を見つめる先生の姿があった。

みんな魚に夢中だし、館内は暗いし……

私は勇気を出して、先生の方へと足を進めた。



「せんせ……」



話しかけようと思って呼びかけた私だったけれど、水槽の中を優雅に泳ぐ魚たちを見つめる先生の瞳が、なにか色々な感情を溶かし込んでいるように見えてしまって、それ以上口を開けなかった。


先生は、水槽を見つめたままで言う。



「……魚にでも、生まれ変わってくれていたらいいんですけどね」



誰が……なんて、聞かなくても解る。

やっぱり先生は沖縄に来れば、彼女を思い出してしまうんだ。

きっとどうしたってそれは避けられない。



「あの群れで泳ぐ小魚にでもなってくれていたら、海の底でも苦しくないし、仲間もいる。そうだったらどんなにいいか…………
なんて、自分の都合のいいように考えたいだけですよね。彼女を一人にした張本人は僕なのに」



銀色に光る小魚たちが一斉に方向を変えた。

その群れが反射させた光が、先生の瞳を哀しい色にきらきらと光らせる。