――せっかく先生が、家に来てもいいと言ってくれたのに。


私は先生と出かけた次の週、厄介な夏風邪をこじらせて寝込んでいた。



「――千秋、有紗ちゃんが来てくれたわよ」


「ん……入って」



お母さんと一緒に部屋に入ってきた有紗はこんがりと日焼けしていて、私とは逆に夏休みを目いっぱい楽しんでいるみたいだ。


お母さんは私のおでこの冷却シートが生ぬるくなってるのを確認すると、それをはがして部屋を出て行った。



「久しぶり。うわー、つらそうだね。熱は?」


「38度ちょい……あんまり近くに来るとうつるかもよ」


「あはは、私はバカだから平気だよ。ねえ、それより恩ちゃんとの海はどうだったのよ」


「あ……うん。なにも、なかったよ」


「何もないことはないでしょう。何を話したとか、何を食べたとか」



……本当は、有紗になら全部話してしまいたい。

でも、先生と約束したんだ。あの日のことは誰にも言わないって。



「……ごめんね、有紗。言えないの」


「言えないって……また何かつらいことがあったわけじゃないよね?」



怒るどころか私を心配してくれる有紗の優しさがあたたかくて、それに応えられない自分がもどかしい。