「怒ってなんかないよ。
どちらかっていうと…不安かな…」
あたしの気持ちに気づいたかのように島津木くんが優しく言ってくれる。
もうチャイムが鳴ってから随分経ってる気がする。
人っ子一人もいない廊下で二人分の足音だけが響く。
「っと、ここら辺でいいか」
辺りを見渡した島津木くんは屋上へと続く階段であたしを廊下の隅に押しやるようにして座らせた。
「近いよ…」
「分かってる」
ズイッと更に距離を縮めて島津木くんはあたしの肩に頭をおいた。
向き合ってるのになんか変な感じ…。
トクトクと心音が穏やかに流れてる。
岩ちゃんの言葉で不安だった気持ちが一気に落ち着いていく。
「………俺はさ、不安で一杯だよ。
ずっと見てたんだから、ずっと好きだったんだから。
どんなに葵が笑顔作っても分かるんだよ。
無理に笑っただけで、たったそれだけのことで俺すごい不安になるんだ」
「…………すっごい口説き文句」
お互い向き合ったままなにも言わずあたしも島津木くんも座っていた。
知ってる。分かってる。
きっともう、気づいてる。
終わらないものなんてない。
お互い気づいちゃってるんだ。
「ねぇ、島津木くん」
「………今はなにも言わないで。
あと二ヶ月だけ待って」
「二ヶ月……?」
スッと顔をあげた島津木くんの目には涙が浮かんでいた。
その言葉の意味がわからなくてあたしは島津木くんを見つめた。
「おれ、後2ヶ月で転校するんだ」
笑った島津木くんの目から涙がこぼれた。

