ぼんやりと誰もいなくなった路地で空を見上げた。
いつのまにか雨はどしゃ降りになっていて傘をさしていない私はずぶなれになっていた。


『……葵、』

私を呼ぶ声はあんなに優しかったのに。
今ではそれすら私を暗い方向へと沈めていく枷になった。

「……好きなのに…」

頬を伝う涙は雨と混ざりあって落ちていく。
澤村さんへの恋心を捨てろと言うように。
彼の動作の1つ1つが彼の言葉の1つ1つが忘れられないのに。
涙を流しているのに頭は冷静にただ、空を見上げている。

『……葵………』

やめて、その先を言わないで。
お願いだから、そんな悲しい顔をして私を見ないでください。

「澤村さん……」

言葉は宙に消えていく。
届くはずも聞こえるはずもなく。
ただ、宙へと霧散していく。

『……しばらく会わないでおこう。お互いのために……お前のために…』

最後に聞いたのは、悲しい別れの言葉。
付き合ってはないんだから、別れではないのか。
けれどあの表情をあの声を聞いた時…私は感じた。
しばらく会わないでおく。
この約束は"二度と"に変わるんじゃないかと。