「かっこ良い人、いるといいな〜」
なんてはしゃぐ市井さん。
合コンなんかに参加しなくても十分モテると思うのに。
8月後半。
夜だというのに外は昼間の熱を残したように蒸し暑くて、人の多さと湿気に少しうんざりした。
「あ、ここだよ〜。みんなはもう中に入ってるみたい」
のれんをくぐって中に入った市井さんの後に続こうとした時、聞き覚えのある声にふと足を止めた。
「タイ君、見て見てー‼一発で取れたよ‼」
「良かったな、みゆ」
耳を澄まさなければ聞こえないくらいの声。
雑踏に紛れたその声は真っ直ぐにあたしの耳に届いた。
鼓動がバクバクと嫌な音を立て始める。
体が硬直したようにそこから動けなくて、後ろのゲームセンターにいるであろう2人の声に無意識に耳を傾けた。
間違いない。
太一と、あの日の彼女の声だ。
気のせいかもしれないけど、甘ったるい香水の匂いが鼻先をかすめた気がした。



