「あの時みたいに逃げたかと思ってたのに、逃げなかったんですね〜」
お店の裏口から出て来たみゆちゃんを捕まえ、人目に付かないように通路の奥に誘導した。
もうすっかり日が落ちて、辺りには月明かりが反射している。
春の夜風は思ったよりも冷たくて、薄手のトレンチコートで来たことを少し後悔した。
「話ってなに?」
あたしの腕を勢い良く振り払ったみゆちゃんに淡々とそう告げる。
「やだな〜、なにそんなに焦ってるんですか?」
クスッとあざ笑うみゆちゃんに、不快感が溢れていく。
どうして、ここまでバカにされなきゃいけないの?
だけど、挑発に乗ったら相手の思うツボ。
冷静にならなきゃ。
ここで感情的になった方が負ける。
「忙しいから、早く終わらせて帰りたいの。さっさと用件言ってくれる?」
「そうですね、みゆも暇じゃないから。じゃあまず一つ目だけど」
ジリジリとあたしに歩み寄るみゆちゃんの目は、恐ろしいくらいに冷たくて
あたしの心を一瞬だけ怯ませた。



