ほだされちゃダメ。
こんなことで誤魔化されるあたしじゃない。
雰囲気に呑まれたって、この不安が消えるわけじゃないんだから。
だけど、本当のことを言えるわけもない。
「やめてってばっ!」
本気で嫌がる姿を見て、あたしの腕を掴んでいたリュウの手の力が抜けていく。
「悪い……悪ふざけしすぎた。けど、さっきの客とはなんもねぇよ。あんなの、ただのスキンシップだ」
あたしの上に覆い被さっていたリュウは、その言葉と共にスッと退いてソファーにストンと腰掛けた。
あたしもそこから体を起こして、リュウの隣に並んで座る。
なんでもないってリュウの口から聞けたことで、心の中のもやもやが少しだけ晴れた気がした。
だけど、気まずい空気がひしひしと流れている。
こんな空気にしたのはあたしなのに、なにを言えばいいのかわからずに黙り込むしか出来ない。
「あたし……お店の先輩待たせてるから」
そう言って逃げるように立ち去ろうとした瞬間、リュウの腕が伸びて来てあたしの手首を掴んだ。
「俺も行くから」
え⁉
行くって、どこに?



