ねぇ
あの子にも、同じようにしたの?
そんなはずはないのに、太一との出来事があるせいで思考が変になる。
幸せになったはずなのに、どうして今さら苦しめられなきゃなんないのよ。
もうやだ。
泣きたい気持ちを必死にこらえて、ギュッと目を閉じた。
そうしないと、泣いてしまいそうだったから。
なにも考えないようにしなきゃ。
なにも。
無になってれば嫌な思いをせずに済む。
「……おい」
耳元で聞こえたリュウの声は冷たいものではなく、艶のある色っぽいものだった。
「目ぇ開けろ」
「やだ」
今リュウの顔を見たら、なにを言ってしまうかわからない。
服の下から手を忍ばせようとしていたリュウの手がピタッと止まった。
「なんでだよ?」
顔は見えないけど、どんな顔をしているのかは想像がつく。
「リュウには、関係ない」
本当は言いたいことがあるのに
なんでもないって言い張ってしまうのがあたしの悪い癖。
太一はそれ以上なにも言っては来なくて、あたしの機嫌が直るのを黙って見守ってくれてた。
だからあたしも、いつも本当のことを言えずにいた。



