だんだんと近付いて来る気配に耳を澄ましていると、声が聞こえて来た。
「ごめんねー、今日は一晩貸し切るつもりだったんだけど用事が入っちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
女の人の声と、もう一人はリュウの声だ。
「今度また一晩貸し切るようにするから、お楽しみは取っておくね」
「そうですね、その方が楽しみが倍増しますから」
階段を上がりきったところで立ち止まっているのか、声が遠退いて行くことはなくこっちまで聞こえて来る。
どんな表情で話しているのかはわからないけど、リュウが美雪さんって人と話しているのは間違いない。
話の内容の意味はわからないけど、胸が痛くて仕方なかった。
「ここでいいよ」
「いえ、上までお送りさせて下さい」
リュウと美雪さんのやり取り一つ一つに、いちいち胸がギュッと締め付けられる。
その時、ふと覚えのある甘ったるい香水の匂いが鼻をかすめた。



