お互い黙り込んだまま、気まずい時間が流れて行く。
それと反比例するように、周りは明るい笑い声で溢れていた。
「帰って来なよ」
ジョッキグラスの取っ手をグッと握り締めた亜希は、あたしの目を真っ直ぐ見ながらそう言った。
「えっ?」
主語がない突然の言葉に困惑してみせたけど、亜希はお構いなしに話を続ける。
「だって妃芽がこっちに出て来たのは、太一がこっちに進学を決めたからでしょ?」
すっかり泡がなくなったビールを亜希はちらっと見つめたけど、それに手を付ける素振りはない。
「別れた以上、こっちにいる意味なくない?」
亜希の言いたいこともわかる。
心配してくれているのも。
「それは、出来ないよ」
「妃芽が働くお店なら、うちらの地元にもあるじゃん。事情を話せば、わかってくれるんじゃないの?」
「でもっ」
「あたしはね、あんたのことが心配で堪らないの」
そう言った亜希の目には、うっすら涙が滲んでいた。



