「……頼むからなにか言って」
なんて首を傾けながら、目を細めて言うのは反則だ。
さっきからドキドキが止まらない。
そのドキドキの意味を、あたしは十分理解してた。
あたし、リュウのことが……。
「……よ、よろしく、お願いします」
ポツリと言ったその言葉に、リュウの目が大きく見開かれる。
「えっ⁉はっ⁉マジで⁉」
信じられないとでも言うように、茶色がかった瞳が左右にゆらゆら揺れていた。
リュウから言って来たくせに、なんでそんなに驚いてんのよ。
しばし沈黙。
リュウは放心状態のまま、ポカンとしていた。
「き、聞いてる?」
魂ここにない感じだけど…⁉
「あ、おう。びっくりしすぎてヤバかった」
そう言って、リュウは照れくさそうに微笑んだ。
「あ、でも……頼むから情けない人だけにはならないでね?」
「わかってるよ」
かなり本気で懇願すると、リュウはフッと笑いながらあたしの体を力強く抱き締めた。
大きなリュウの胸に顔を埋めながら、あたしもその広い背中をギュッと抱き締め返す。
スーツからは、タバコとスカッシュ系の香水が入り混じった匂いがした。
平凡な恋愛をするって誓ったはずなのに。
あたしが選んだのはホストのリュウ。



