「ない、よ?未練なんて」
追い詰めて来るようなリュウの視線に耐え切れず、あたしは蚊の鳴くような声でそう言った。
あれだけ太一のことを想っていたのに、今は本当になんとも思っていない。
そう思えるようになったのも、全部リュウのおかげ。
「そうか」
「う、うん……」
「…………」
ふっと少しだけ手を掴む力が緩んで、あたしは少し安堵した。
でも、この沈黙はなに?
めちゃくちゃ気まずい。
緊張感漂う沈黙が続く。
あたしは目の前にあるリュウの喉元と口元を、落ち着きなくちらちら見つめていた。
「別に……助けたわけじゃねぇから」
あたしから少し離れたリュウは、視線の高さを合わせるように屈んで、ボソッと呟いた。
「え?」
視線を上に向けた途端飛び込んで来たのは、無表情ではなくいつものリュウの顔。
口角を少し上げて、目付きもすごく優しかった。
「さっきの電話。俺があいつに言いたかっただけだ。なんなら、本当に付き合うか?」
ドキッ
会う度に言われていたこの言葉。
今までは冗談っぽくだったし、ヒロさんがいる前で平気で口にするから、本気にしていなかった。



