風で横に流れた髪の隙間から覗く瞳が、真っ直ぐにあたしを捕える。
「……まだ、未練あんの?」
スーツの裾を掴んでいたあたしの手を掴んだリュウは、路地の壁際へとあたしを追いやる。
「え……ちょっ」
その真剣な瞳に、まるで金縛りにでもあったかのように動けなくなる。
「答えろよ……まだ未練あんのかよ?」
無表情のまま淡々とそう口にするリュウに、あたしはなにも言い返せなくて口を結んだ。
ただなんとなくだけど、否定しても肯定しても、リュウの表情は変わらないままなんじゃないかなって思った。
両方の手と背中が、コンクリートの壁にキツく押し当てられる。
「……っ」
掴まれた手にリュウの指が食い込んで痛み、思わず顔をしかめた。
リュウの体で壁に押し付けられているので、密着度はかなり半端ない。
ドキドキと激しく鼓動が脈打ち、抵抗することも出来ない。
背後に感じるコンクリートの冷たさだけが、正常に物事を考えようという唯一残された部分だった。



