「な、なっ……」
驚き過ぎてプルプル震えながら、声にならない声を出そうとするあたしに、
目の前の白スーツの人は、「ね、知ってるでしょ?」と爽やかに続けた。
「た、辰巳って……リュウのことだったんだ」
なんだか、騙された気分。
「辰巳はあいつの源氏名だよ」
なんて白スーツの人は、にっこり笑いながら教えてくれた。
源氏名
そっか、ホストだもんね。
それすら知らされてなかったあたしは、本当にリュウのことを何も知らないんだなぁと改めて実感した。
なんだか、少し寂しい。
リュウのこと、もっと知りたいよ。
あたしに気付かず扉付近で談笑しているリュウの顔は、ホスト辰巳の顔だった。
談笑してるのはもちろんその周りにいる人で、リュウはクールに微笑んで時々相槌を打っているだけ。
甘い笑顔で笑うリュウは、今のこの場にいなかった。



