白銀の女神 紅の王(番外編)



不覚にも濡れた銀色の瞳に見上げられ心臓がドクンと鳴る。



「ノース…会議は……?」


熱のせいか掠れた声でたどたどしく口にしたエレナ。

単語を頭の中で繋ぎ合わせ、エレナの言わんとすることが分かった。



「会議は延期になった。暫くはここにいる」


会議が延期になったことを伝えるとエレナは安堵したようにもたれかかってくる。

腕を俺の体に回し、浅い呼吸を繰り返すエレナの頬は未だ赤く、額には汗が滲んでいた。

名残惜しかったが、エレナの両肩を掴んで体を離し、持ってきたタオルで汗を拭く。





「さっきよりも酷くなってないか?」


額にタオルをあてながらエレナに問いかけるが、当の本人はとろんとした瞳で首を傾げる。

その拍子に銀色の髪がサラリと横に流れ、ふわりとエレナの匂いが香った。




ドクンッ…――――

香りにあてられたように強烈な眩暈に襲われ、心臓の鼓動が一気に早鐘を打ち始める。

瞬間、不自然なくらいバッとエレナから視線を外した。

こんな時だというのに何を考えているんだ、と自分の中に眠る男のサガに呆れる。

昔はこんな欲でさえコントロール出来ていたはずだった。

だが今はエレナの仕草ひとつで振り回され、喉の渇きを覚えるほどの欲を駆り立てられる。





「シルバ…?」

「あ、あぁ…お前熱がまだ引いてないだろ。解熱の薬を作ってきたから飲め」


上手い口実が出来たと思い、机の上に置いていた薬を取るために立ち上がる。

薬が入った器をエレナに渡すとエレナは素直にそれを口に含んだ。

この薬草の根茎はとても苦くて渋く、エレナは眉を歪ませながらも含んだ薬を飲み下した。