「どうしたんだ?頭が痛いのか?」
呼びかけにも答えずに呆然と俺を見るエレナにそう問いかければ、エレナは目を細めて首を横に振る。
そして、先ほどよりも涙で濡れた銀色の瞳が俺を映す。
「なん…で…ここにいるの?」
「いては悪いのか?」
不安に揺れた銀色の瞳の意図がくみ取れず、慎重に応える。
すると、エレナは先ほどよりも勢いよく首を横に振って否定し、瞳に溜めた涙が一気に零れ落ちたかと思えば、次の瞬間エレナが胸の中にいた。
「も…いっちゃったかと…思った…」
そう言って肩を震わせ、涙を隠そうともせずに泣くエレナ。
小さく紡がれた声は僅かに俺の耳に届き、その言葉の意味を理解して「あぁやっぱり駄目だ」と思った。
俺はエレナを手離すことなど出来ない。
こんなにも愛おしく温かな存在を手離すことなど遠に出来なかったのだ。
夜着に着替えたエレナを抱きしめ、いつもエレナが泣くとする癖からか、自然と背中を撫で、頭を抱え込んでいた。
「シルバ…っ……いかないで…」
エレナは俺の腕の中でうわ言のようにそう繰り返す。
意識を失う前にも確か同じような事を言っていたが今やっと理解できた。
「俺はここにいるだろ」
しっかりと抱きしめ、そう耳元で囁けば、エレナがゆっくりとこちらを見上げた。

