しかもそれがただ一人の女に注がれた。
唯一にすることの危険を知っていてだ。
フェルトの言う通り俺は腑抜けたのかもしれない。
けれど、こればかりは理性では抑えられないことは重々分かっているため、それを認めざるを得ないな。
フッと笑みを零し、部屋のドアノブに手をかける寸前、部屋の中から僅かに声が漏れ聞こえた。
時折声を詰まらせては小さな声を上げているのは確かにエレナのものだった。
「ふ…っく…シルバ…っ」
ふと自分の名が聞こえた気がして、部屋に入った。
部屋は出て行った時のまま、机の上に置かれたランプの灯りが部屋の中を照らしていた。
眠っていたはずのエレナは体を起こし、こちらを驚愕の表情で見ている。
その頬には涙の跡があり、瞳には遠目からでも分かる程濡れていた。
「エレナ?」
慌てて手にしていた薬を机に置き、呆然とするエレナの横に座った。

