過去の暴力は今でもなお、エレナの心に深く根付いていた。
そしてそれを見破られたエレナは酷く動揺し、狼狽えた。
「ごめんなさい…でも今は…」
「言わなくていい」
エレナの謝罪は悪漢と同様に俺を恐れた事に対してだろうか。
恐らくエレナの怯えの対象は暴力をふるう者、とりわけ男に対しての恐怖心があるように思える。
声に出して言われたわけではないが、触れられたくないと思っていたかもしれない。
しかし…――――
「お前が俺のことを怖がっていようがいまいが関係ない」
例えエレナが俺を拒絶しようと、この想いの行く果てはお前にしか辿り着かない。
お前が触れることを許してくれると言うのなら、俺はこの想いを言葉にして伝えよう。
「俺はお前に会いたかった、エレナ」
短く息を飲み、今度こそ口を噤んだエレナ。
目を見開き、銀色の瞳には涙が浮かぶ。
少なくとも、エレナも同じ想いだったと思ってもいいだろうか。
「抱きしめてもいいか?」
「…っ…シルバ…」
声を詰まらせて子供の様に涙をぽろぽろと零すエレナに眉尻を下げながら柔らかな笑みが浮かぶ。
「もう限界なんだが」
そう言って手を広げると、エレナは涙を流して頬を膨らませながら恨めしげな瞳で俺を見る。

