白銀の女神 紅の王(番外編)



眉を寄せ、傷ついたように歪められる瞳に罪悪感が込み上げる。



「触れないようにしていたのは、お前が触れられることに怯えていたからだ。過去のトラウマが甦ったんだろ?」

「なんでそれを…」


エレナは弾かれたように顔を上げ、目を大きく見開く。

あれで気づかれていないとでも思っていたのだろうか。

あんなにも怯えた表情をしていたというのに。





「お前がまだ城に来たばかりの頃、俺がお前に手をかざしたときと同じ顔をしていた」


あの時、俺は知らぬふりをしていたが、エレナの手や脚には無数の痣があった。

ニーナによれば服に隠された箇所にもそれはあったらしい。

賭博場で日頃から躾と称して体に刻み込まれていたのだろう。

だからあの宴の夜、なかなか心を読もうとしないエレナに手をかざした時、エレナは怯えた。

暫くは我を忘れるほどの怯えは出なかったが、赤くなった頬を見る限り、男たちの暴力によって忌まわしい過去の記憶が蘇えったというところか。