「お風呂…入ってきます」
手で顔を隠したままそう言ったエレナの声は今にも泣きだしそうだった。
俺に顔を見られたくないとばかりに俯いて横を通り過ぎようとするエレナ。
「ふざけるな……」
小さく呟いた声がエレナに届いていたかは分からない。
静かに沸いた怒りに自分の声さえも耳に届かなかった。
パシッ…――――
突然腕を掴まれたエレナは驚き、少し怯えていたようにも見えた。
だが、もう止まらない。
「俺がいつお前に触れたくないと言った」
その言葉にエレナの銀色の瞳が見開かれる。
「6日も離れていて、お前に触れたくないわけがないだろ」
エレナの腕から力が抜け、ただただ呆然と俺を見つめる。
「ノースでの会議にもお前をつれていくはずだった。にもかかわらず風邪を引いたからといって出ていったのはお前だろ。2、3日で戻ってくるかと思えば城には戻っていないし、顔を出してみれば知らぬ男と…」
言いかけて、続く言葉を飲み込んだ。
エレナの手を放し、自身の内にあったドロドロとした感情に嫌気がさした。
「いや、なんでもない」
本当はこんなことが言いたかったわけではない。
これではまるでエレナを責めているようで、至極自分勝手な言葉ばかりだ。

