白銀の女神 紅の王(番外編)



「こんな時は抱きしめてくれるのに……私が汚くなったから?」

「何を言って…」


こんな状況でなければ甘いその言葉も、今は怒りにも似た感情しか沸かなかった。

確かに常ならぬ俺の行動に不信感を募らせるのは分かるが、エレナは俺の想いを分かっていない。





「あの人たちに触られた体には触りたくない?」

「エレナ」


低く唸るような声が部屋に響き、エレナがハッと我に返ったように目を見開く。




「あ…ごめんなさい。私すこし混乱してて…騒ぎ立ててごめんなさい」


前髪をくしゃっと握る手は僅かに震えている。

小さい肩を強張らせ、俯くエレナが心の中で何を想っているのかは想像に難くない。

いつもは必要以上に触れる俺が今日は触れないようにしていることを、自分が他の男に触れられて汚くなったからだと言うエレナ。

何故自分の想いよりも俺の想いを気にするのか。

不安なら何故不安だと口にしない。

俺がそんなに心の狭い奴に見えるか?