パタン…――――
古びたドアを閉め、後宮の10分の1くらいの部屋に入る。
この部屋は幼少の頃俺が過ごした部屋で、ベッドやソファーなど相変わらずの配置だが、今は女物の様式に様変わりしていた。
「ここで待っていろ。すぐニーナを呼んでくる」
そう言って花柄のベッドカバーが敷かれたベッドにエレナを降ろすが、エレナは服を掴んだまま離さない。
「エレナ?」
「いかないで…」
消え入りそうな声で呟かれたそれに、目を見開く。
しかし、その言葉の意味もすぐに分かった。
「すぐに戻ってくる」
膝を折り、視線を合わせてそう言うが、エレナは何故か瞳を潤ませて俺を見る。
普段から妙に聞き分けの良いエレナはこういう時、すぐに頷く。
しかし、今日は予想外の答えが返ってきた。
「なんで…いつもみたいに抱きしめてくれないの?」
「ッ…!」
エレナが躊躇いがちに口にした言葉に息を飲んだ。
エレナには分かっていたのだ…俺がエレナになるべく触れないようにしていたことを。
震えるエレナを強く抱きしめたいと思うのに、今回ばかりはそうもいかなかった。
しかし、俺の想いなど露程も知らないエレナは悲しそうな声で呟く。

