「僕たちは帰れるから大丈夫」
「それよりも早くブルームたちのところに行ってほしいの」
子供たちの切迫した話し方に、これは少々急ぐ必要があるなと思いながら馬に跨る。
しかし、続いた少女の言葉に息を飲んだ。
「早くしないとエレナお姉ちゃんまでっ…」
「今…何と言った……」
不安げな子供の前で動揺を見せてはならないと思いつつも、少女が呟いた名に動揺を隠せないでいた。
いや、まだ子供たちのいう“エレナ”が俺の想うエレナと同じだとは限らない。
「エレナとは誰だ」
掠れた声でそう言った俺に子供たちが訝しげな表情をして口を開く。
「エレナお姉ちゃんはフェルトさんちのお姉ちゃんだよ」
「ッ……」
少女の言葉を聞いた瞬間、馬の手綱を思いっきり引き、少年が指差した方向へ走り出した。
急げ…もっと早く……
あそこまで言われてしまえば、エレナが巻き込まれていることは確かだ。
今回は変装しているはずで、王族だとはばれていないだろうが、一体どんな面倒事に巻き込まれたのだろうか。
限界まで馬の速度を上げ、沿道に近づく。

