グリッドはノーラの横に並び、エレナの前で立ち止まる。
そして、ノーラの後頭部に手をあてたかと思えば、頭を下げさせ、自らも深く腰を折った。
その姿に俺とウィルは目を疑った。
まさかあのグリッドが頭を下げるなど思いもしなかったからだ。
「エレナ様、世間知らずな娘がご迷惑をおかけしたようで申し訳ございませんでした」
突然現れたノーラの父がノース地区の貴族を束ねる男だとは知らないエレナは首を横に振った。
「いいえ。ノーラさんの毅然とした姿勢は私も見習わなければならないと思います」
茶目っ気たっぷりにそう言ったエレナにグリッドとノーラは顔を上げ驚いた表情をした。
「娘からはエレナ様は勇敢にも悪漢に立ち向かって娘や子供たちを守ったと聞いております」
グリッドの口から敬語が出るとは何とも耳障りだ。
「そんな…あの時は怖くて何もできなかったし、結局シルバに助けてもらったので、お礼を言われるまでもありません」
褒められたエレナは照れたようにはにかみ、耳まで真っ赤にしながら否定する。
しかし、グリッドは穏やかな表情をして微笑み、口を開く。
グリッドの微笑みに俺とウィルが再び目を疑ったのは言うまでもない。
「悪漢を前に立ちはだかるなど大の男にもそうそうできませんよ。澄んだ心を持ち、真っ直ぐな瞳を持った女性だ。この国の行く末も安泰だ」
そう言ったグリッドは不意に視線を俺に移す。
「シルバ様、良い妃をお迎えになりましたな」
「あぁ」
表情こそ堅かったものの、俺への態度を軟化させたグリッド。

