それにしても、人に、しかも男に抱き付くなんて、彼氏くらいにしかしないだろう。
だがしかし残念なことに、その彼氏すらいないのだ。
「お前もういい、一生モヤモヤしてろ」
「え、ヒドいですよ!なんで教えてくれないんですか!?」
「罰だ」
あたしは記憶の中を探った。
ない、いないよ、こんなに意地悪で、美声で、無駄に整った顔の男なんて、あたしは知らない。
こんな人を今までの人生の中で一度でも会ってたら、しかも自分から抱き付いたとしたら、そんなこと忘れるはずがない。
酔ってたとか、寝ぼけてたとか?
いや、まず酒は飲まないし、寝ぼけても記憶がなくなるほどひどかったことはないと思う。
彼とあたしは一体、いつ会ってたの……?
……と、突如頭を鷲掴みにされた。
もちろん奴だ、緒方先輩だ。
「小さいな」
「はい?」
いきなり話題が逸れたのか、あたしはついていけてない。



