下駄箱の外で抱き合う男女は、帰宅部の皆様方の注目の的でして。
いや、でも彼は背が高いから、あたしは隠れて見えていないかもしれないけれど。
それでも、あたしから誰も見えていかなかったとしても、その羞恥は大きい。
だってさっきまで冷たい態度とってたような鬼畜悪魔が、どうしてこうなった?
ふわり、漂う香りに、だんだんと抵抗する力を奪われているような気がする。
響く鼓動は、あたしのものか、それとも彼のものか。
それは少し、速いような気がする。
「和歌」
かすれるような、ささやくような声で、あたしの名を呼ぶ。
嫌、そんな風に呼ばないでよ。
「思い出したか?」
「だから……わかりませんってば」
緒方先輩はスッとあたしから離れて、ポツリと言った。
「お前が俺にしたことなのにな」
どういうこと?
「人違い、とかでは?」
「和歌なんて名前、そうそういねーよ」
確かに、あたしも自分以外の同じ名前の人には会ったことがない。
あれ、でもそうすると……あたしは彼に名乗ったことがあったのか、もしくは前に名前を知る機会が彼の方にあったのか、ということになる。



