「お前今、悟の為に何かしたいって気持ちが湧いてるだろ」



ふつふつと、それは話を聞いている間ずっと湧き上がって来ていた感情。

誰かの為になにかをしたいという気持ちは、親しい仲であればあるほど、強くなる感情だと思う。



「まずその感情の冷却期間に三週間」

「……冷却期間?」



まさかこの気持ちを、冷まさせる期間を設けられているとは、思いもしなかった。



「和歌さん」



綾愛さんに呼ばれた声により、私の心臓を指さしていた心くんのその指先から、綾愛さんに視線を移す。



「なにかを思いついたり行動を起こしたい時、気持ちが先に走ります。それは衝動感です、行動を起こすときの原料にはなります」



綾愛さんは、この気持ちを原料と言う。

けれど、原料なら必要なことではないのだろうか?

なぜ冷ます必要があるのか?

心の中から湧き出す疑問の答えは、すぐに差し出された。



「原料にはなっても、それをコントロール出来るとは限りません。アクセルだけあって、ブレーキとハンドルがなければどうなるでしょうか?」

「……事故りますね」

「そういうことです」



つまり、この冷却期間は気持ちの高ぶりによる事故防止のため……ということだろうか。



「この三週間で、お前が悟の件について協力することを表面上だけじゃなく、体の芯まで理解して馴染ませ、同時に衝動感を抑えて理性的な行動ができるようにする」

「馴染ませるのと、理性的な行動……?」

「知識だけの理解程度では、お兄ちゃんに何か聞かれたときにボロが出ちゃうこともあるんですよ。特に日常ではなく、外出先などの非日常の場面で」



確かに、今もし東先輩に「何か企んでる?」とか聞かれても、見抜かれる自信しかない。

しかし三週間後なら……?

自覚して、気を付けることに慣れた頃、あたしはボロを出さずにいつも通りの振る舞いが出来るだろうか……?



試したことがないからわからないけれど、きっと今よりは誤魔化しが上手になっていると思う。