綾愛さんも苦笑いで、その頃の説明をする。
「女の子相手に、上の学年の男が急に話しかけても警戒されちゃいますしねぇ。和歌さんの登校時間に重なるような時間帯で計画していたのですが……いざ本人を目の前にしたら逃げ出しちゃって」
「犬……いたから……」
「まぁその報告を後から聞いて、その出来事を使って茅ヶ崎さんを向かわせたかったんですが……教室の人目が無理だったようなので、茅ヶ崎さんのお願いなら聞いてくれるだろうお兄ちゃんに直接向かわせてしまえと」
「それであの日東先輩に呼び出されたというわけですか」
なんというか……あたし一人と接触する為にご苦労様です……。
緒方先輩の為に二人が協力している形とばかり思っていたけれど、裏では東先輩のことまで絡んでいたのかと、ここで知る。
「心くんは来る予定なかったんですか?」
「俺はお前が俺の事を忘れていたらショックだから最初は避けてた。案の定忘れられてたしな」
彼は思いの外ガラスハートの持ち主だったようだ。
だよね、自分で行けてたらあたしを見つけた後すぐ来るだろうしね。
あたしも心くんの頭をよしよししておいた。
ちょっといじけているみたい。
最初の頃忘れていて、ほんとにごめんね。
そう思い返すも、実際にあたしが思い出したのは心くんとの記憶のほんの一部で、まだモヤがかかって細かい所までは思い出せていない。
幼い頃の話だから……というのは、あるだろうけど。
知歌の時の衝撃で、前後の記憶があやふやになっているのは否めない。
そんなに知歌の病気のことが……知歌が苦しんでいたことが、前後の記憶を掻き回してしまうほど、衝撃的だったんだろうか?
確かめたくても、その当時の記憶も……実はあやふやなので、わからないのだ。



