「あの頃、アタシは全然家に帰れていなくてね。使用人や先生、この子の父親にみんな任せてしまっていたんだよ」
そう言って、ティーカップに口を付け、一息入れる理事長。
「この子もそういうのを隠しちゃうタチだったから、エスカレートしていたあのクソの暴走に気付けもしなくて……しっかりしている子だからと放ってしまっていた自分を恨みもしたよ」
「いや、あのクソとハードな習い事がなかったら和歌に会えてなかったから過去のことはもういいだろ。あの後全部縁切ったじゃねえか、あれだけで十分だ」
「心~~~!!!」
「くっつくなクソババア!!!」
私たち双子の目の前には、息子に抱き着く理事長、その顔を押さえつける心くん。
「クソというのは……」
「ここでのクソは心くんの父親だよ、知歌」
「親子揃ってクソって言ってたけどよほど酷いのかな、和歌」
「こっちが拒否してる中、人使って接触してこようとしてくるくらいにはね」
「それはだいぶだね」
うす暗くなってきた空、メール受信音に気付いて見ると、そこには綾愛さんからのメールが来ていた。
「知歌、ちょっと席外すね。すみません理事長、心くん、ちょっと失礼します」
「お手洗いの場所とかなら、その辺にいる使用人捕まえて案内させるといいからね」
「はい、ありがとうございます!」
とは言っても、私が用あるのは綾愛さんである。



