彼らが激安の殿堂『ドンキ』に足を踏み入れるなんて……いやというかそもそもドンキの存在を知ってるなんて。
心くんも東先輩も奏多くんも、みんな割とそういうごちゃごちゃした場所は苦手としているだろうに。
「誰が行ったんでしょう……?」
心くんはあの商品数見てるだけで嫌になりそうそうだし、東先輩だってそんな面倒なことはしなさそう、行かなそう。
となると奏多くんか……?
人見知り全開の奏多くんなのか……??
この三人だけだと選択肢は浮かびもしなかったが。
「灯に、相談して、付き合ってもらったの」
彼の名前が出ると、ストン、と納得してしまった。
あぁ、確かに彼ならコミュ力高いし、学生に人気なお店も色々知ってそうだ。
クラスで見ている限り、友達の幅も広い。
「ほんとに、いい人だな、彼は」
今日、恐らく傷付けてしまっただろう彼のことを思い出す。
きちんと、先に報告しておくべきだったかもしれない。
結果は、彼を傷付けたという事実は、変わらなくても……。
また、そんな後悔に捕らわれている。
あたしは、また過去に、捕らわれている。
考えては逃げ、また思い出しては別のことに意識を向け、また些細な繋がりから思い出す。
「和歌」
頬に伸びてきた心くんの手が、あたしを現実へと引き戻す。
「浮気か?」
そう聞かれて、一瞬なんの事かと記憶を巡らせるが、それが今朝拉致されていた原因だと思い出す。
「違います」
まだ引っ張るのか、灯くんと一緒に帰ってたこと。
しかも付き合う前のことなのに。
ムッとして彼に言い返すが、眉間のシワが取れないままでいる彼は納得してくれていない様子。
ふふっと笑い声が聞こえ、奏多くんに視線を向けると、彼は手を振ってまたキッチンへと消えていった。
こちらはそんな和やかなムードではないはずなのに、なぜ彼は笑って行ったのか……?
「和歌」
また、意識を呼び戻される。
「俺だけ見てろ」
そう言ってまた彼は頬を撫で、妖艶な笑みを浮かべ、顔を近付けてくる。



