大きな手が頭に乗り、優しく撫でてくれる。
その腕の先にいる心くんは、優しい瞳を向けている。
「大丈夫だから、隣、来い」
また数度撫でられ、離れていった腕に名残惜しさを感じるが、彼の隣に座るとほっと緊張が解れて満たされていた。
東先輩があの体勢のままなのが少し気になるけれど、心くんが「大丈夫」だと言ってくれたので、それを信じてみる。
「じゃあ今日は、お祝いしないと、だね」
自分のことのように喜んでくれる奏多くんに、いやいやそんな大層なもんじゃないよ、と断ろうとするが
「心は8年越しだよ」
そう言われてしまうと、これは大層なことかもしれないと、納得してしまう。
いや、あたしも初恋が8年越しで実るとは思わなかったけれど、ずっと想い続けていたわけではない。
途中で知歌のことがあってゴタゴタしてる時に彼のことをすっかり忘れていた頃もあったのだ。
けれど記憶を忘れることが出来ない彼は、ずっとずっと想い続けていてくれていたのだろうか。
……もはや執着では?
「ところでお前」
ふとそう言い始めた心くんに視線を移すと
「そのピコハン、使ったのか?」
両手で大事に握りしめていたそれを指し、そう聞かれると、ビクリと肩が跳ねる。
そう、未だにこの手には奏多くんから与えられたままのピコハンが握られているのである。
いくら彼氏という立場だろうが、彼が先輩だという意識が抜けていないあたしにとって、ピコハンだろうが殴るという行為には罪悪感がある。
というか実際まだ殴っていないのだけれども。
「ま、まだ使ってない!!」
顔をめまいがするほど勢いよく横に振って全力で否定する。
ちょっとクラっとしたけれど、彼は信じてくれたのか、頭をやさしく撫でてふわりと笑ってくれた。
……その表情にまた、心臓が弾んでしまう。



