ようやくその腕から解放されたあたしは、ソファーの背もたれの裏に身を隠す。
東先輩の視界に入りたくないのだ。
どう反応するのか読めなすぎる彼は、今一体なにを考えているのかわからないからさらに怖いのだ。
また無言の空間が広がる。
その空気を壊したのは、心くんだった。
「コイツ、俺のになったから」
「……」
「手出すなよ?」
まさか、ここで、このタイミングで、暴露された。
いやいやいや、もっと別のタイミングあるでしょう!?
なんでこのタイミングで暴露するんですか!?
しかも東先輩に向かって「手出すな」って、いや彼絶対手出してくることないですから!!
恐れ多いし!!
怖いからあたしも逃げるし!!
と、思ったけれど、そういえばこの家に来る前、学校で頭や頬を鷲掴みされた記憶がポンと浮かぶ。
……ある種、既に手は出されていた、かもしれない。
痛い方で。
はぁぁぁ、と大きなため息が響き、背もたれから少し顔を覗かせると、項垂れて両手で頭を抑える東先輩の姿があった。
なんというか、レアな反応だ。
どんな反応をするのかイマイチ読めていなかったが、こんなに大きなため息を吐かれるとも思っていなかった。
「……それ、もしかして、今朝の話?」
表情は見えない彼に、ポツリと質問される。
その言葉に、心くんは「あぁ」と一言肯定する。
「そうか」
彼は頭を上げないまま、そう、ただ受け入れただけだった。
感情は見えないけれど、恐らく怒っているわけではなさそうだ。
それだけで少し、恐怖心が和らぐ。
キッチンから静かに姿を現した彼が、落ちていた本を拾い、机の上に優しく置く。
そしてこちらを向く視線と絡み、少し緊張するけれど。
「おめでとう」
ふわりと、優しい笑みを向けてそう祝福してくれる彼に、涙腺が緩んでしまった。



